Amazonは、年間140億回にのぼる手作業の収納工程を自動化するため、触覚センサーを備えたロボット「Vulcan」を2025年5月に発表しました。物流現場における人とロボットの協働を加速させる狙いがあります。
Amazonは2025年5月7日、ドイツ・ドルトムントで開催されたイベント「Delivering the Future」において、同社初となる触覚センサー搭載型倉庫ロボット「Vulcan(ヴァルカン)」を発表しました。これは、年間およそ140億回手作業で行われている商品収納(ストウ)業務の自動化を目的としたものです。
Vulcanは、Amazonの倉庫内で広く用いられている繊維製の可動棚(fabric pod)に商品を収納するロボットで、1時間あたり最大300個の処理能力を持ちます。AIと3D視覚システムを活用して棚内部を立体的に把握し、商品を前面のゴムバンドを避けて正確に収納します。特に上部棚への作業に特化しており、従業員の踏み台利用を不要にし、安全性の向上にもつながります。
従来のピッキングロボットは、主に吸引機構と視覚センサーに依存していましたが、Vulcanは力覚(触覚)センサーを搭載しており、商品の形状や硬さを認識しながら作業を行うことができます。これにより、不定形な物体や柔らかい素材の商品も安全かつ効率的に扱うことが可能となりました。
Vulcanはすでに50万件以上の収納作業を実施し、1回あたりの成功率は86%に達しました。一方で、9.3%は適切に収納できなかったほか、3.7%は商品を床に落とすなどして人の手での対応が必要となる失敗が発生しました。Amazonは「収納率は人間とほぼ同等」であるとし、特に棚上段の収納をVulcanに任せることで、人間の収納効率が平均で4.5%向上すると試算しています。
Amazonの応用科学ディレクターであるアーロン・パーネス氏は、「Vulcanはロボットが世界を“見る”だけでなく、“感じる”ことを可能にした技術的飛躍です」と述べています。IEEE Spectrumなど専門媒体も、「自動化の現実的な進化」としてVulcanを評価しています。
Vulcanは現在、米国ワシントン州スポケーンおよびドイツ・ハンブルクのフルフィルメントセンターで実際に稼働しており、今後は欧米の他拠点への展開も計画されています。日本市場においても、少子高齢化や物流業界の人手不足が進む中で、Vulcanのような先進的ロボットの導入が期待されています。Amazonは、完全な自動化ではなく、従業員とロボットが協働する新たな作業環境の構築を目指しています。
【記事出典URL】